2018-11-27

中の人の中の人による中の話

これは数年前の話。

ある春の晴れた夕暮れ。

夕飯の仕込みを終えて
最後のお客様のシャンプーをするために
大急ぎで店に戻った。

 

すると、なにやらいつもと雰囲気が違う。

夫とお客様、2人の空気が確実に違う。

 

うーん、そうですね。

 

はい。

 

うーん、そうですね。

 

2人に笑顔はなく

いつもよりも何倍も慎重な声が聞こえた。

 

時が止まってるような長いカウンセリング時間が暫く続いた後、

シャンプーにお通しするときに
夫が小声で私にこう耳打ちした。

 

 

「髪、抜けらすかもしれんけん」

 

 

それで全てが伝わった。

私が今からすること出来る事。

 

落ち着いて

 

落ち着いて

 

安心して頂けるようなシャンプー。

 

落ち着いて

 

落ち着いて。

 

それなのに

 

私はプロ失格だった。

 

顔にお掛けしているガーゼの下から流れてくる涙と、離れ落ちるたくさんの髪。

 

正直に言うと

 

 

怖かった。

 

 

心の底から自分が情けなかった。

 

 

 

 

シャンプーが終わってカットが始まる。

 

 

ずっと涙を流されるお客様に
夫は寄り添うように静かにカットを。

 

 

今日はこんな風に切りますね。

もし
毛量の変化があってもおかしくないように。

 

一言、一言、
丁寧に伝える。

 

丁寧に鋏が入る。

 

 

お客様は
真っ直ぐ鏡を見て
ずっと涙を流されていた。

 

 

私はその空気感に居たたまれなくなり、
バックルームに下がった。

 

 

 

 

 

それからどれくらいの時間が経っただろう。

 

 

 

 

美容室から
ほんの僅かだけど笑い声が聞こえてきた。

 

 

不思議に思い、そっとドアを開けてみた。

 

 

「ここは今こんな切ってますけど、反対に分けるとバランスが変わりますから、見た目の誤魔化しは出来ますからね」

 

「こんな風に結んでこうやって持ち上げたりすると、ほら、ここがあるとこう見えるので多少違いますよ」

 

 

一生懸命、お客様に向き合う夫の声。

 

 

ほんとだ、あ、ほんとですね。

 

と、お客様の落ち着いた声。

 

 

「男の人が髪について何か言ったら、無言で睨みつけたら大丈夫!
そしたらそれから絶対なんも言えんはずやけん!」

 

本気か冗談か

身振り手振りで大袈裟に話す。

 

あはは、そうなんですか?

 

「女の人が何か言ってこらしたら、
美容師が下手くそだったけんこんななった!って言ってください!」

 

そう夫が言うと、

 

 

私がここで切ってるって知ってる人いますよ笑

 

 

 

「なんか

 

 

下手くそになっとらした!!って

言ってください!笑」

 

 

 

そんな会話が聞こえてきた。

 

向こう側は悲しみだったけど、

2人の会話に笑顔があった。

 

 

そして

お見送りの際

「ありがとうございました」

と仰ったお客様は

少しだけ元気になられたように感じた。

 

 

 

 

 

私はこの日のことが忘れられない。

 

きっと一生忘れないと思う。

 

いろんな仕事にいろんな物語があるように

美容室も美容師の力が試されるときがある。

 

 

美容の先輩であり

 

信頼できる親友でもあり

 

私の夫。

 

paletteの美容師。

 

 

 

 

本日50歳になりました(^^)

 

 

 

 

ヨガという新しい道を見つけ、

相変わらずカットの勉強も続けてる今。

 

あと5年、10年経ったら

どんな美容師になっとらすとやろう。

 

 

そんなことを思いながら

こんな人と生きれていることは幸せだな。
と、思ったりしたのです。


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